愛を教えて ―背徳の秘書―
その後、ふたりは一緒にシャワーを浴びた。人心地つくと、ベッドの上で他愛ない話をしながら戯れる。

そんな中、冗談めかして宗が差し出した合鍵を、雪音は恐る恐る受け取つつ……。


「これって、何個目?」

「人聞きの悪いことを言うなよ」

「だって、何曜日の何時ごろなら“ダブルブッキング”にならないのか聞いておかないと」

「だから君専用だって」

「ふーん。ま、気が向いたら来てあげるわ」


そう言ったときの、雪音の顔はまんざらでもなかった。



――宗はシャワーのコックを捻る。

湯は止まり、ポタポタと水滴がタイルに落ちた。


予想どおり、雪音は休みのたびに宗のマンションを訪れるようになった。宗も、なるべく休日を重ねるようにして、雪音とのデートを楽しんでいる。

最初は不安だった。自分で引いたラインの内側にひとりの女性を入れることは、彼にとって危険な賭けである。

しかし、些細なことで一喜一憂する社長夫妻を目の当たりにし……。愛とか恋とか家庭とか――それまで、面倒だ、と人生から省略した物を、彼は欲しくなった。

香織が『結婚する気なんでしょう?』と言ったのは、ある意味正解である。彼は雪音との結婚を真剣に考え始めていた。

だがそのためには、一日も早く身辺をキレイに整理しなければならない。


宗はもう一度深くため息をつき、バスルームを後にしたのだった。


< 14 / 169 >

この作品をシェア

pagetop