愛を教えて ―背徳の秘書―
今度ばかりは、そうも言ってはいられない。

なぜなら、朝美は今年で二十九歳になった。


秘書は総合職と違って、出世が見込める仕事ではない。

その代わり、若いうちから重役や管理職の身近にいられて、出世株を見つけるにはよいポジションだ。朝美は社長秘書として卓巳の近くにいたため、欲張ってしまった。

今となっては、若手の重役候補は年下ばかり。三十代の連中にはすでの相手が決まっている。


結婚の平均年齢が上昇したとはいえ、女の身体は確実に衰えていく。

事実、ほんの数年前まで食べ過ぎて下腹が出ても、数日で元のボディラインに戻していた。それが、今では中々引っ込まない。化粧品もより高額で高機能の商品にチェンジしていく一方だ。

宗は卓巳社長の友人でもあり、右腕だ。おまけに弁護士バッチも持っている。万一会社が傾いても、妻子を路頭に迷わせることはないだろう。

女癖が悪い点は玉にキズだが、浮気程度なら目を瞑ってあげてもいい。その分、セックスはタフで女を楽しませる術を心得ている男だ。



ポーン……考え込む朝美の耳に軽快な電子音が聞こえた。

最上階に着いたとき、彼女の心は決まったのである。

――この噂を利用して宗と結婚しよう。

狙いを定めた肉食獣のように、朝美は獲物を確実に捕まえる手段を練り始めた。


< 17 / 169 >

この作品をシェア

pagetop