降ってくる声
降ってくる声
 ベッドに潜り込んだのは、約束した時間の三分前。携帯を握りしめて、その時を待つ。

 腹這いになって、この間かけかえたばかりの淡いグリーンのカーテンが窓から入ってくる風に揺れているのを眺めながら。

 あらかじめセットしておいた時間にアラームが鳴る。それを切って、何度もかけている相手に電話した。


「おはよう。起きてる?」
「んー、あぁ」


 聞こえてくる圭太の声は、どこか寝ぼけているみたいだ。

 いつもは男の人にしては少し高め、でも爽やかな声。でも、今は寝起き特有の気怠げな雰囲気に包まれている。

 同じベッドで、おはようと言えるならいいのに。


「まったく、おばさんがいないからって私にモーニングコール押しつけないでよね」
「わりぃ……」


 眠気を振り払おうとしているのだろう、圭太は話を続ける。


「夏希、おまえ今何してた?」
「ミヤから借りた本読んでた。そろそろ読み終わりそう。明日には返せるかな」


 これは嘘。実際には三十分も前からそわそわしてた。何も手につかなくて、部屋の中を行ったり来たり。


「読み終わりそうって、いつ起きたんだよ」
「私? 三時間前から起きてるけど」


< 1 / 2 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop