手も足も首もいらないと思った
やっと、やっと触れられた。それなのにその瞬間、あたしは急束に冷めてしまった。

理由はよくわからない。肌触りが良くなかったせいかもしれない。

 ベッドの上で、あたしは二回目の恋に抱かれている。

無防備な彼の寝息が、前髪にかかる。あたしは体を起こし、ベッド脇のスタンドをつけて、柔らかく割れた腹筋から毛布を剥ぎとった。裸の上半身を細部まで鑑賞して、なんてカッコイイんだろうと思う。滑らかな肌、弾力のある筋肉、厚みのある胸板。あたしは砂に字を書くように下から指をはわせていく。喉仏にひっかかり、首筋で指が止まる。

首は邪魔だ。

丈夫そうな鎖骨に額をつけて、心底残念に思う。彼が、無駄のない純粋な胴体だったらどんなに素晴らしいだろうと考える。規則正しい彼の鼓動を聴きながら、うっとり目を閉じる。ノコギリで無骨な四肢を切断するイメージが浮かんだ。火花のように血しぶきがあがったところで、ゆっくり瞼をあけた。彼の首や肩や脚の根に、爪でキリトリ線をつけてみる。

 切っちゃおうかな――。

「どうしたの」
 薄く目を開いた彼が眩しそうに笑った。
「眩しかった? ごめんね」
あたしは作り笑いを浮かべて、ライトを消す。長い腕があたしを絡めとり、優しく抱きよせる。
「べつに。それより、どうかしたの」
くぐもった笑い声が四角い胸から響いてくる。
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