彼女の特権
 見せつけるかのように、手の甲を再び指が這い始めた。

 身長の割に手が大きい。
 手がごつごつしているのは、学生時代、バーで働き始める前は工事現場で働いていたからと聞いた。

 けれど、その指でマドラーをくるくると回す動きは軽やかで。
 メジャーでお酒を計る時も。
 氷とお酒をシェイカーで振る時も。

 目を離すことができなかった。
 初めて彼の店に行った夜、一緒に行った友人たちのことも忘れるくらい見入っていた。

 それから、彼の店に通い詰めたんだっけ。
 常連、から彼女、に昇格するまで半年かかった。


「おいでよ。何なら明日会社まで送るからさ」


 心が揺れた。

 緩やかに手を自分の方へと引く。
 彼の手を、今度は私が握りしめた。

 そっと顔を寄せて、彼の手の甲に口づける。
 一回、二回。

 最初に口に含んだのは、人差し指の根本。
 そのまま横に唇を滑らせる。先端にたどり着くと、今度は中指とまとめて口の中に押し込んだ。

 この先の行為を予期させるように、舌を絡めてやる。
 口から引き出した時に、小さな音がした。

 鈍く光る指を眺めて、彼が苦笑いする。


「着替え、持ってくる。すぐに戻ってくるから」


 彼の指を好きにすることができる――それは私だけの特権。
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