ビロードの口づけ
 コウはクルミより二つ年下で、五年前から住み込みで厨房や庭師の下働きをしている。
 母親が獣に襲われ身寄りがなくなったので、働かせて欲しいと屋敷にやって来たのを父が雇った。

 来た時はまだ子どもだったので、仕事の合間にはクルミと一緒に勉強をしたり、話し相手をしてくれたり、姉弟のように暮らしていた事もある。

 栗皮色のサラサラな髪と同じ色のクリッとした目が愛らしく、小柄なコウは成長した今でも可愛い弟のようだ。

 ポンタという狸を思わせる呼び名は見た目とは合っているが、アヅミ=コウという名前とは一文字も一致していない。


「どうしてポンタなんですか?」
「アンポンタンのポンタだ」


 確かにコウは少し抜けていて時々ドジを踏んでいるが、ジンにかかれば身もふたもない。

 クルミが目を伏せてそっとため息をついた時、コウがおずおずと話しかけた。


「あの、クルミ様。カイト様がお見えになっています」
「お兄様が?」
「だそうだ。支度が済んでいるならすぐ行くぞ」


 ジンはクルミの背を叩いて部屋の外へ促した。

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