ビロードの口づけ
 いつ嫁に行ってもおかしくない年頃のクルミは、愛し合う男女の営みについて一応学んでいる。
 きっと自分の中のメスが反応しているのだ。
 無意識に男を求めている、はしたない自分がたまらなくイヤになる。

 ジンは嫌いなクルミをいじめて泣かせるために嫌がらせをしているだけ。

 分かっているのに不快に思わなかったのが悔しい。
 うっかり泣いてしまってジンの思うつぼだったのも更に悔しい。

 それを思うと再び涙が滲んできて、クルミは抱えたひざの上に顔を伏せた。


「クルミ様?」


 突然声をかけられ、クルミは弾かれたように顔を上げた。
 目の前にはコウが不思議そうな顔をして立っている。
 厨房の下働きをしているコウは、何か食材を取りにでも来たのだろう。

 クルミは慌てて涙をぬぐう。
 クルミの前に片膝をついてしゃがんだコウは、心配そうに顔をのぞき込んだ。

< 59 / 201 >

この作品をシェア

pagetop