ビロードの口づけ
 いつも父は忙しく、滅多に顔を合わせることもないので、親子関係はそっけない。
 迷惑をかけないいい子でいることがクルミの務めだと思っていた。

 そのせいか余計に父との会話も接触もなかった。
 父はクルミに関心がないのだろうと諦めていたので、こんな風に心配してもらえるのが意外に思えた。

 同時に今頃になって、助かったのだという実感が湧いてきて涙があふれ、クルミは父にしがみついた。

 翌日からクルミは、家の敷地内から外に出ることを禁じられた。
 当然ながら学校にも行けない。

 父が家庭教師を雇ったので勉強の方は問題ないが、友人と会えなくなったのは寂しかった。
 始めの頃は手紙をくれたり遊びに来てくれた友人たちも、日が経つにつれ次第に疎遠になっていった。

 そして五年後、クルミが十八になった年、父がクルミを獣から守るためにボディガードを雇った。

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