ビロードの口づけ
 むしろ平謝りするモモカを気遣ったらしい。
 コウに対する態度とは雲泥の差だ。

 クルミほどではないのかもしれないが、女の子の甘い香りに酔わされたのではないかと勘ぐってしまう。

 だがモモカも獣よけの香水を常用している。
 女の香りは打ち消されているはずだ。

 それに気付いた途端、胸がざわついた。
 クルミの事は嫌いでも、モモカの事は好きなのだろうか。

 他の侍女たちに対して、ジンは猫かぶりの状態で機械的に接している。
 クルミにだまされたとはいえ、失敗をしたはずのモモカにだけ優しいなんて。

 改めて頭を下げたモモカを、ジンは微笑んで見送った。
 そんな優しい表情が初対面の時以来、クルミに向けられた事はない。

 自分が嫌われている事は承知しているが、なんとなくおもしろくない。

 扉を閉めてこちらを向いたジンは、いつもの冷たい表情に戻っていた。
 それが益々面白くない。

 不機嫌さが顔に出ていたらしく、ジンがニヤニヤしながら問いかけた。

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