ビロードの口づけ
「あなたは私が嫌いなんでしょう?」
「あぁ、嫌いだ」


 答は分かっていた。
 何を期待していたのだろう。
 クルミの気持ちを知れば、少しは優しくしてくれるとでも——?
 分かっていたけど酷い人だ。

 クルミの気持ちを確認した上で、期待を持たせて地にたたき落とす。
 それでも彼を嫌いだと言えない。

 悔しくて、辛くて、涙があふれ出す。

 ジンが顔を近づけてきた。
 クルミはそっと目を閉じる。
 拒む気もない。
 だってこの時だけは、ジンが優しいから。

 ジンの腕がふわりとクルミを包み込む。
 まぶたに唇が触れ、舌先が涙をぬぐう。

 ジンの身体から、覚えのある甘い香りが微かに漂った。

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