クランベールに行ってきます
だが、ロイドも負けず劣らず不敵の笑みを見せる。
「タダ飯食えると思うなよ。生体実験のサンプルくらいは覚悟しとけ。だが、夜にはかわいがってやろう」
そう言うと、結衣の髪をひとつかみ持ち上げて肩の上にパラパラと落とした。
「この、エロ学者!」
結衣は、あごを掴んだロイドの手を振りほどいて逃れた。
ロイドは腕を組むと勝利の笑みを浮かべる。
「殿下の身代わりを演じるなら、王宮内でのおまえの自由は保証しよう。何が得策か、バカじゃなければわかるだろう?」
結衣はふてくされたような表情で上目遣いにロイドを見上げた。
「わかったわよ」
承諾したと同時にロイドが結衣の額を軽く叩いた。
「だったら、言葉に気をつけろ。女言葉は使うな。おまえは今からレフォール=ドゥ=クランベール殿下だ。おまえの正体を知っているのは、オレと陛下とラクロットさん、それから殿下捜索隊の五名だけだ。他の者にはばれないように気をつけろ」
額を押さえながら結衣はロイドに尋ねた。
「じゃあ、教えて。王子様ってどんな人? 性格は? 言葉遣いは? 立ち居振る舞いは? どんな仕事をしているの?」
「それについてはラクロットさんに一任してある。後でしっかり教わっておけ。
最低限テーブルマナーくらいは完璧に覚えろ。殿下の仕事は公式行事への参列と王族や貴族との会合会食以外、普段はこれといってないからな。公式行事は当分予定なしだか、会合会食はいつあるかわからない。あらかじめ予定されている公のものはつい先日終わったばかりだが」
確かに自分のテーブルマナーは怪しいかもしれない。
しかも、この国独自のマナーがあるかもしれないし。
そう思うと、本来なら味わう事のない豪華な宮廷料理を口にする機会が与えられたのだとしても、かえって気が重かった。
それにしても毎日会食という事はないだろう。
普段の王子は何をして過ごしているのだろうか。
同じようにしていなければならないはずだ。
尋ねるとロイドは軽く答えた。
「王宮の敷地内に居さえすれば、何をしていてもいい。二、三日は王宮内の探検でもしたらどうだ?」