クランベールに行ってきます
結衣は益々苦笑する。
ものすごくイヤだ。
どう断ればいいのかわからず、しどろもどろになる。
「……えっと、彼とはさっき会ったばかりですし……結婚とかは……その……」
「ロイドはいい奴だぞ」
「……え……」
思わず顔が引きつる。
(王様、あなたは騙されています。この男は二重人格です。こいつが私にした数々の仕打ちを知れば、その考えは吹っ飛ぶはずです)
よっぽど暴露してやろうかと思ったが、ロイドを信頼している王に信じてもらえそうにはないので、黙っておく事にした。
結衣は大きくため息をついて肩を落とすと曖昧に言い逃れる事にした。
「……もう少し、考えさせて下さい……」
「よいとも。一生の事だしな。いい返事を期待しておるぞ」
王は嬉しそうに笑うと、結衣を解放してくれた。
「陛下、我々はそろそろ失礼いたします」
ロイドがそう告げると、王は息子を溺愛する父親の顔から、国王の顔へと戻った。
「あぁ、頼んだぞ」
「御意、承りました」
ロイドが一礼し、それにならって結衣も頭を下げると、二人は謁見の間を後にした。
元来た廊下を引き返しながら、ロイドが結衣に話しかけた。
「おまえ、陛下に気に入られたようだな」
「愛する息子と似てるからでしょ。言っとくけど、あなたと結婚なんてしないからね」
結衣がきっぱりそう言うと、ロイドは意地悪な笑みを浮かべる。
「王命に背くのか? いい度胸だな」
「私は日本に帰るのよ! 王様に甘えるのは王子様の役目でしょ? さっさと見つけてよ!」
「わかったから廊下でわめくな。誰かに聞かれたらどうする」
ロイドに言われ、焦って周りを見回したが、相変わらず二人の他には誰もいなかった。
ホッと胸をなで下ろすと、ロイドが背中をポンと叩いた。
「さっさと戻ろう。ラクロットさんが待ってる」
「うん」
少しペースを上げて、二人はラクロット氏の待つ王子の部屋へ向かった。