月夜の翡翠と貴方
するとラサバは、眉を寄せ、悔しそうに顔を歪めた。
「…劇団の人間は、スジュナの存在を知りません」
「え………」
「二年前、劇団は遠い都市へ本拠を一時的に置いておりまして、私だけ、残っていたのですが…………昨日の夜、帰ってきたのです」
「………もしかして、おっさん」
眉をひそめたルトの目から逃れるように、ラサバは視線を下へと動かす。
「……はい。スジュナのことは、言ってません。………隠しています」
何故、とは、訊けなかった。
私もルトも、隠す理由などひとつしかないことがわかっている。
ふたりは、太陽のように笑い、蝶々を目で追う少女に目線を移した。
…………スジュナが、奴隷屋から引き取った娘だから、だ。
だから、ラサバは劇団の人間に言わない。言うことが、できない。
「…………」
スジュナが、劇団の人間を知らないのも当然だ。
昨日ひとりで、ラサバの友人の家に泊まっていたのだから。