月夜の翡翠と貴方
「ええ、仲良くお父さんと半分こして頂戴!」
「うん!ありがとうお姉さん!」
私も頭を下げる。
女は、ふふ、と満足気に笑った。
思わず見惚れてしまうような、魅力的な笑みだ。
すると、女は「じゃあ、ちょっと宣伝させてもらうわね」と言った。
「宣伝?」
「ええ、私、この町に唯一ある劇場の娘なの。知らない?ここから近いんだけど…」
私は、息を呑んだ。
劇場の人だったのか………!
焦りを悟られないよう、なるべく平坦な声色を努める。
「…公演を見たことはないのですが、知っています」
「本当?まぁ、おととい帰ってきたばかりだしね。それで私は、役者として出るんだけど。この後記念公演があるから、是非来て欲しいの」
今はお昼の買い出しに行かされててね、と彼女は笑う。
このよく通る声も、魅力的な笑みも、役者なら頷ける。
しかし、公演に行けるかは…
「時間があったら…是非行きます」
こちらが申し訳なさそうに笑うと、女はいいのよ、と言った。
「パンの代わりの宣伝だから。来れないのであれば、知り合いに宣伝してくれると助かるわ」