ポンコツ王太子と結婚破棄したら、一途な騎士に溺愛されました
 下町で覚えた素敵言葉を告げて、ニナと揃って開け放たれたままの窓枠に足を掛ける。

 背後で悲鳴が聞こえたような気もしたが、これ位の高さなど自分たちにとってはどうということもない。ワンピースの下には、しっかり膝丈のズボンも穿いている。

 ふたりは軽やかに窓枠を蹴り、そのまま宙に身を躍らせた。

「あはははは! 言ってやった、言ってやったわ!」

「素敵でしたわ、ユフィ様!」

 二階の窓からすとんと着地するなり、即座に走り出しながら、込み上げる笑いを堪えきれない。

 この際、精々王太子に恥を掻かせてやろうじゃないか。

 とんでもないスピードで駆けてくる侍女姿のふたりに目を丸くしている門番達を、その勢いのままにニナと同時に一撃で沈める。

 そして、そこに繋がれていた馬を解き放ち、素早く手綱を取ったニナの後ろにふわりと飛び乗った。

「お騒がせして申し訳ありません、皆さん!」

 その美貌を惜しげもなく晒し、ぐるりと辺りを見回しながらにっこりと笑めば、見惚れる人々は呆けたようにその場に立ち竦む。

 かつて兄をして「だるまさんが転んだ」と言わしめた、ユフィーナの必殺技である。

「わたくし、ザカリス王国オブライエン公爵家が娘、ユフィーナ=ミラ=オブライエンと申します。先頃まで王太子妃としてこの国にご厄介になっておりましたが、王太子殿下より、わたくしのような貧相な小娘を妻として認めることは、生涯ありえないと申しつけられてしまいましたの!」

 結婚式の当日に。

 ざわりとどよめく人々に、ですから、と高らかに宣言する。

「わたくし、実家に帰らせていただきます!」
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