ポンコツ王太子と結婚破棄したら、一途な騎士に溺愛されました
 それから五日後、ゼーン伯爵家次男、ジークウェル=ラギ=ゼーンが所属するシルヴァ騎士団は、南の国境警備に配属された。

 騎士団の配置換えによる警備の不慣れや地の利の暗さを狙い、その後すぐに隣国クレイドルが宣戦布告もなしに侵略してくることなど、知らぬまま。

 いつか愛する姫君の手を取ることだけを夢見た十七才の少年は、三年という月日を、戦乱の中で過ごすことになる。

 そうして、救国の英雄として首都に戻ってきた彼が知ったのは、クレイドルの侵攻に乗じて不穏な動きを見せた東の大国、ルードの王太子が彼女を求め、一年も前に国王がそれに応じたという事実であった。

 無事に帰って来てね、お守りよ、と慣れない手で作り上げたらしい房飾りを自分に押しつけながら、今にも泣きそうな顔をしていた少女は、もうこの国のどこにもいない。

 呆然とした彼に、彼が戦場に行ってからオブライエン公爵家を継いだ彼女の兄が、一通の手紙を差し出す。

 彼女が嫁ぐ直前に託したのだというそれには、見覚えのある字で一言、「おかえりなさい」と記されていた。
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