想 sougetu 月
 私は別の引き出しを開く。
 ジュエリーボックスの一角にある、指輪を差し込むくぼみの中で一箇所だけ空いている所に指を突っ込み小さな銀の鍵を取り出した。

 このオルゴールは中に鍵つきの小さな収納スペースがある。
 私は中身を見られたくなくて、小さな鍵をこうしてくぼみの中に隠していた。

 オルゴールを机の上にそっと置いて、小さな鍵穴に小さな鍵を差し込んで回す。

 カチンっと小さな音がして、上蓋が開く。
 そこには、幼い私が好きだった特撮戦隊物のヒーローのキャラクターがワンポイントになっている男の子用のハンカチが入っている。

 ハンカチの持ち主とこのオルゴールをくれた人は同一人物。
 このオルゴールとハンカチは私が大切にしている2つの宝物だった。

 自然と優しい笑みがこぼれる。
 しかし、次の瞬間。

「恋人が出来るのも時間の問題かしらね?」

 脳裏に突然声が聞こえ、出した時とまるで違う少し荒々しい手つきで蓋を閉めて鍵をかける。
 小さな鍵も元の場所に隠し、オルゴールを引き出しに戻すと顔を机の上につっぷした。

 消えてしまいたい……そんな思いが湧き上がる。

 何度も諦めようとした。
 何度も違う人を好きになろうとした。
 それなのに10年近くもたった1人だけを想ってきた。

 何度心を諌めたとしても、私の心はたった1人だけに向いてしまう。
 自分ではどうすることも出来ない頑なな私の心……。

 もうこんな呪縛のような想いから解き放たれたい。

 だから決めたのだ。
 もうすぐ私は20歳の誕生日を迎える。
 その日を境に私はこの想いを無理にでも封印してしまうことを・・・。
 
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