ビロードの口づけ 獣の森編


 これほど側まで来ると、改めてザキの大きさに驚く。

 ジンも長身だが、ザキは更に頭ひとつ分以上に上背がある。
 そしてその身にまとう彼自慢の筋肉が身体をもうひとまわり大きく見せていた。

 こんな大男に捕まってしまったら逃れようがない。
 ザキは少し前までクルミを食べる気でいた。
 彼がジンに従う気になってくれてよかったとつくづく思う。

 けれどそれを不思議に思っていた。
 どうして従う気になったのだろう。
 そしてなぜ反発していたのかも分からない。
 もしかしたら、従うふりをして反撃の機会を窺っているのでは?
 それを確かめたかった。

 クルミはザキを見据えて、単刀直入に尋ねた。


「あなたはジンに反発していると聞いていました。どうして従う気になったんですか?」

「ずいぶんとストレートだな。一言で言うなら、何かが変わりそうな気がしたからだ。オレは古い掟に縛られている獣社会に閉塞感を覚えていた」

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