重なる身体と歪んだ恋情
奏様は奏様で、


「お帰りなさいませ、今夜は白檀ですね」

「如月、君が犬のように鼻が利くとは知らなかったよ」


今夜もどこかの女性と一緒だったのだろう。

白檀と言うことは葛城か。

おしろいや紅を衣類に残さない代わりに彼は女の香りを纏って屋敷に戻る。

いや、戻るだけマシなのだろうか。


「あぁ、そういえば桜井の世間知らずがまた金の無心に来ましたよ」

「はい?」


唐突過ぎる話題についていけず声を上げれば奏様はフッと笑ってタイを緩めてソファに座った。


「あれだけの借金を肩代わりしたというのにまた借金を作りたいとか理解に苦しむね」

「……」


確か2000円ほどの借金だったか。

美味しい投資話に食いついては騙されて。

土地も家も抵当に入ってたはずだ。


「今回は100円とかいう可愛い金額ですが、実際はいくらつぎ込んでるんだか」


奏様の乾いた笑いにため息を付きたくなる。

実の妹を金で売り払った挙句、また同じことを繰り返しているとは。


「噂ではまた土地の一部を抵当に入れたらしい。そして使用人も全員解雇と聞きましたし」

「まさか」


ここほど大きな屋敷では無いにしろあの屋敷に祖母と彼と二人だけ?


「噂だよ、如月。だけど一度見に行ったほうがいいかもしれないね」

「……そう、ですね」


千紗様には悪いが、彼女の兄である彼の心配をしているわけじゃない。

心配なのは彼女の祖母で。


しとしと止まない雨に嫌な予感がした。

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