愛罪



 やめてくれと素直にそう思った。



 ひねくれていて、他人のことなどどうだっていいという概念で生きる僕でも、泣き出しそうな人間を見てみぬ振りが出来るほど冷酷ではない。

 だからこそ、やめてくれ。

 観覧車の中での自分はどうかしていたと本気で思う。

 それでも、壊れそうなほど儚く、それでいて美しく笑った彼女をどうしても放っておけなかった。

 真依子に気を許すような、そんな行動は今後一切やめようと誓った矢先だ。



 彼女は、僕が目まぐるしく廻る想いと葛藤していた最中(さなか)、その白い頬に一筋の涙を伝わせた。



「……っ」



 嗚呼、もう戻れない。

 太ももの上で重ねられた華奢な手の甲にぽつりと真依子の涙が落ちた瞬間、僕は彼女をそっと抱き締めた。

 薄いシーツでその全身を包んであげるよう、本当にそっと。



 心は叫ぶ。君は馬鹿だと。

 もうひとりの冷酷な僕が、今真依子を抱きしめる僕に言う。君は馬鹿だと。



「そ、ら……?」

「…僕は君を許したわけでも、疑ってないわけでもないよ。だから、黙って」



 耳許で零れた真依子の息を飲むような声に、僕はリビングの角に置かれた観葉植物を凝視しながらそう言った。

 とても抱きしめた側の言葉とは思えないけれど、少しでも自分を納得させられる理由を言葉にしないと今度こそ自分を見失ってしまいそうだった。



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