愛罪
「刑事さんには話したのかい?」
そっと手を離した祖母は、微笑のまま問う。
もちろん、彼を忘れてなんかいない。
今も頭の片隅で考えてくれているかもしれない後藤さんには、落ち着いて話がしたくて明日にでも会いに行こうと思っていた。
本当はすぐに伝えるべきなんだろうけれど、さすがに今瑠海と離れるわけにはいかないし、僕自身きちんと気持ちを整理してから話したかった。
「明日にでも行ってくる」
「そうかい。たくさん力になって貰ったんだから、きちんとお礼を言いなさいな」
その言葉に僕が瞠目すると、祖母は意味深な笑みを残して瑠海のいる居間へと廊下を歩いて行った。
ぽつんと玄関に突っ立つ僕は、祖母には本当に全てお見通しだったんだと気付いた。
刑事さんに話したのかいとの言葉は、てっきり捜査を早々に切りあげた者たちのことを示しているのだと思った。
けれど、忘れていた。
祖母は、僕が警察署に足繁く通っていたのを知っていたのだ。彼女は決して口にはしなかったけれど、ずっと心配を掛けていた。
感謝しても、し切れない。
「お兄!桃、瑠海が全部食べちゃうよ!」
駆け巡る想いに感慨深く浸っていると、廊下に響く瑠海の声。
ふと目を遣ると、居間の襖から顔だけを出してこちらを見る姿があった。
いつもと変わらない、だけどふとよぎる泣き顔に今の笑顔を被せながら、僕は「残しててよ」と薄く笑いながら靴を脱いで上り框にあがった。