キモチの欠片

「受付の河野さんだよね、あの二人って付き合ってんの?」

「えー、初耳だけど」

そんな声が聞こえてきた。

そりゃあ初耳でしょうね。
あたしも今、初めて聞いたので。

葵のヤツめ、誤解されてるでしょ!
あたしたちは付き合ってないんですけど、と言いたくなる。


噂話とか大嫌い。
何気ない言葉ひとつで人を傷付けることがあるから。

ため息をつき、仕方ないので俯きながら葵のもとへ向かう。
これで行かなかったら更におかしなことを言われそうだし。

トレイをテーブルに置いて席に座ると葵は満足そうに笑う。

不覚にもその顔にドキッとしてしまった。
ホント、あたしの心臓はおかしくなったんじゃないかと思うぐらい制御不能だ。


「お、旨そうじゃん。一口くれよ」

スッと手が伸びてきてレンゲであたしの八宝菜をひとすくいしてパクリと口に入れる。

「あーっ、あたしの八宝菜っ!しかも大好きなうずら」

当たり前のように人の好物を食べる葵を殴りたくなった。
まだ箸すらつけていないのに先に食べるなんてどういうことよ!

食べ物の恨みは怖いんだからね。
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