キモチの欠片


更衣室で制服に着替え、身だしなみのチェックする。
最後に鏡に向かって笑顔を浮かべ、頭を仕事モードに切り替えた。

始業時間前になり、社員の人が出社してくる。



「おはよう、柚音」

そんな中、受付に座っていると、エントランスを抜け涼しい顔をして声を掛けてきた男。

羽山葵……あたしと同い年の幼なじみ。
ついでにいうと同期で開発部に所属している。

こうやっていちいち受付に声を掛け挨拶していく人は多くない。
基本、社員はスルーしていくんだけど。


「おはようございます、羽山さん」

張り付けた笑顔で挨拶をする。


彼は少し長めの黒髪に切れ長の目、鼻筋の通った鼻。
長身でダークグレーのスーツの下はサッカーで鍛えた逞しい身体。
恵まれた顔立ちに体格、おまけに頭脳明晰ときてる。

嫌味なぐらい完璧な男だ。



「今日も頑張れよ」


憎らしいほど爽やかに微笑んでエレベーターホールに足を進める。

何が頑張れ、よ。
大きなお世話と心の中で悪態をつく。

入社して約四ヶ月。
毎日のようにこうして声をかけてくる。
あたしは苦々しい気持ちでアイツの後ろ姿を見送った。

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