キモチの欠片

この時、あまりにも必死に薦めたせいで俺の気持ちが自分の親や花音さんにバレてしまったのは言うまでもない。

花音さんは『葵くんと柚音はお似合いだったもんね。それなのにお互い変に意識して距離が離れちゃって、私も心配していたのよ。あの子、意地っ張りだから葵くんが歩み寄ってくれてよかったわ。それにしても、羽山さんのところに就職か……。考えてもいなかったわ。勧めてみるけど就職試験、受かるかしら?』なんて笑って言ってくれた。

俺は花音さんと連絡先を交換した。

ゆずの母親を味方につければこっちのもんだ。

あとはお互いに就職試験に受かるだけ。


ようやく迎えた入社式。
何年振りだろう、ゆずを見たのは。

いろんな想いが込み上げ、この時の胸の高まりといったら半端なかった。
中坊かよ!と自分に突っ込みをいれたくなるぐらいに。

当のゆずはスーツを着て、見た目は大人な女って感じなのに、周りの雰囲気にのまれたのかキョロキョロと視線を泳がせて落ち着きがない。

早くそばに行って正面から顔が見たい、話がしたいという衝動に駆られた。
俺はニヤけそうになる顔を堪えながら真っ直ぐにゆずの元へ歩き出し緊張しながら『柚音……』と声をかけた。

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