主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
息吹が離縁をしたならば、うまくいけば息吹を妻として迎えることができるかもしれない――


道長と義経と相模のうち、特に道長と義経は淡い期待を抱いて晴明邸へ通い続けたが、息吹は何かと言って2人が懇意にしている紫式部や白拍子の静のことを聞きたがった。

道長は息吹が嫁に行った後男女の関係はないにしても親しくしていたのは事実だし、義経は各地を転々としている静には少なくとも好意を抱いていた。

だが息吹が離縁するかもしれない、ないし息吹と出会ってしまった2人は、今や息吹まっしぐらだ。

2人共実直だが、道長は想いをすなおに口にすることができない性格で、義経は真っ直ぐすぎるほどに真っ直ぐな性格をしていた。


「息吹姫、本日は大切なお知らせがあって参りました」


「え、私にですか?どうしたんですか?」


畏まって背筋を正している義経の前で正座した息吹は、何事かと訝しんだ表情で義経を薄目で見ている道長と晴明に気付きつつも義経を真っ直ぐ見つめた。


「あなたが離縁した折には正式に私の妻となって頂きたく、頭領の兄頼朝からの許可を得て参りました。ただの冗談ではなく真剣に考えて頂きたい」


「な…っ」


先を越された道長は声を上げようとしたが、横に座っていた晴明が道長の膝を叩いてそれを制する。

息吹もいきなりの求婚で目を白黒させていたが、主さま以外の男にこうして真っ直ぐな瞳で求婚されたのははじめてで、頬を赤らめて俯いてしまった。


「で、でも…私…」


「離縁された方がいい。妖とは幸せにはなれません。どのようにして出会ったか私は経緯を知りませぬが、人は人と夫婦になるのが自然の摂理。息吹姫…よくよく検討を」


「義経さん……でもあなたには静さんが…」


「静は関係ないと何度も申し上げたはず。私はあなたを妻に迎え入れたい。…道長殿も同じ思いでしょうが、私からは以上です。お返事をお待ちしております」


強い決意と眼差し――

わなわなしている道長とは対称的に、息吹の手に想いをしたためた文を握らせて晴れやかな表情で義経が晴明邸を後にすると、息吹はぽかんとした表情で晴明を見つめた。


「ち、父様…」


「義経殿の言う通りよく考えてみるといい。私はそなたの意志を尊重するよ」


――主さまと離縁…

このままでは何もかもが中途半端で、話が勝手に進行してしまっていることに焦りを覚えた。

< 127 / 377 >

この作品をシェア

pagetop