主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
主さまの屋敷に戻った息吹は、隠し事をするのが嫌いなので義経と出会ったことを晴明たちにすぐ話した。


「静?義経殿は確かに静と言ったのだね?」


「うん。父様は知ってるの?」


疲れて帰って来た息吹のために山姫が用意してくれた料理に舌鼓を打っていた息吹が問うと、隣に座っていた晴明は頷いて箸を置いた。


「静とは今巷で有名な白拍子のことだよ。以前そなたにも話したことがあると思うが」


「白拍子の静さん!舞う姿がとても美しくて綺麗な方なんだよね?え…義経さんは私と静さんを勘違いしたのかな」


「まあ雰囲気は似ていなくもないが、そなたの方が可愛いに決まっている」


娘至上主義の晴明が息吹を褒め称えると、雪男は鼻を鳴らしていけ好かない義経を非難する。


「遊び人って感じだったぜ。女慣れしてたし饒舌だし、息吹を口説きやがった。主さまに言い付けてやる」


「私からも主さまにはお話するけど、義経さんとちょっとお話してみたいなって思ってるの。父様、主さまは嫌がると思う?」


「それは嫌がるだろうねえ。だが話す程度ならば大丈夫だろう。義経殿は戦に滅法強く、正義感に溢れる人となりだ。きっと面白い話が聞けるだろう。私からも十六夜に話しておく故、安心しなさい」


「父様ありがとうございます。でも義経さんは何をしに平安町に来たのかな」


「一条天皇が退位した後息子の相模が次期帝となる。一条天皇の嘆願により源氏の頭領と弟が脇を固めて内乱を防ぐということらしいが…さて面白うなので私も久々に朝廷へ行ってみることにしよう」


「相模が次期帝に!?わあ、すごい!元気かな、会いたいな」


嫁いだ日から相模や萌には会っていない。

時々手紙を交わすことはあれど、忙しい相模の返事は素っ気なく、いつしか文を交わす回数は減ってしまっていた。


「義経殿から近況を聞くことはできよう。私も探っておくからね」


晴明と山姫はそう言って息吹を安心させたが、雪男は違った。

…この身体では息吹を満足に守れないし、男として意識させることもできない。

それが悔しいし、早く大きくなりたいが…どうすれば大きくなるのかわからない。


「ちぇっ。息吹、俺もついて行くからな」


これ以上好敵手を増やさないためにも、息吹にへばりついて離れない覚悟でいた。
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