主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
「…息吹はどこに居るんだ?」


百鬼夜行から戻って来た主さまは、夫婦共同の部屋に息吹が居ないことでむすっとなった。

…高千穂に帰ること自体は嫌だったが、息吹とは2人きりで過ごす時間を沢山取れた。

だが…ここに帰って来ると、人気者の息吹は常に誰かと一緒に居ることが多いので、新婚気分を味わうことはできない。


「………おい晴明…わざとだな?」


「おや、ばれたか。どうだこの寝顔。幼い頃と全く変わらぬ」


主さまの機嫌が急降下する。

客間で寝ていた晴明の腕の中にはすやすや眠っている息吹。

血の繋がりがないので主さまはそれを危なっかしく感じているのだが――晴明と息吹は真の親子以上に、親子だ。

危ないことなど起きるはずがなく、晴明が身体を起こそうとすると、息吹が無意識に晴明の胸に抱き着いていやいやをした。


「やっ。もうちょっとこのまま…」


「そうしたいんだけどねえ、私の命が無くなってしまうかもしれないから起きてもらえるかい?息吹、十六夜が戻って来たよ」


「…えっ?あ、主さま!お帰りなさい、また寝ちゃってた…」


息吹を激しく見下ろした主さまはぷいっと顔を逸らして客間から出て行く。

慌てて後を追ってきた息吹は、ちょこまかと後ろをついて歩きながら主さまの帯の間に手を突っ込んで立ち止まらせた。


「主さま怒ってるの?どうして?」


「…晴明と寝るな」


「でも…平安町で暮らしてた時は時々一緒に寝てたもん。ただでさえ父様が泊まってくれることは滅多にないし…駄目?」


夫婦共同の部屋に着くなり主さまが着物から腕を抜いて着替えを始めたので、顔が赤くなった息吹はすぐさま背中を向けて正座をすると、もじもじ。

主さまの裸を見慣れるということは絶対にないのだが、すらりとした腕や筋肉はばっちり見てしまっていて、またかっかっしてしまう。


「…時と場合による。…こっちに来い」


息吹を無理矢理膝に座らせると、わざと疲れたような息をついて心配させることに成功。


「主さまどうしたの?疲れてるの?大変なことがあったの?」


「お前にねぎらってもらえば疲れなど吹き飛ぶ。……に、にやにやするな!」


「だって嬉しいこと言ってくれるから…。あのね主さま、昨日面白い出来事があったの。聞いて聞いて」


床に一緒に横になっているだけで癒される。

だが息吹が話した内容は、一時急上昇した主さまの機嫌を再び急降下させた。

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