それでも、愛していいですか。
「歩けますか?」
男は淡々と尋ねる。
「だ、大丈夫です」
奈緒はアスファルトを見つめたまま答えた。
「よかったです」
「あのっ、すみませんでした。ありがとうございました」
奈緒は一礼して、その場から逃げるように去った。
突然、その場で起こった一部始終が恥ずかしくなって、1秒でも早くそこから去りたかったからだ。
身体にまだ、男の体温が残っている。
トクン、トクン。
鼓動が、早い。
怖かったからなのか、それとも格好いい男性に突然抱きしめられたからなのか。
奈緒は足早にアパートへ帰った。
頭の中がパンクしそうだった。
「いたたたたっ」
今頃になって、塀で打った背中が痛み出した。