それでも、愛していいですか。

そうこうしているうちに季節は流れ、梅雨の季節を迎えていた。

この時期になると、民間企業への就職希望者は内定を取り始めていて、公務員の受験勉強しかしていなかった奈緒は、少し焦りを感じ始めていた。

受験に失敗すれば就職浪人するか、企業のランクを落として就職するか、専門学校へ入り直すか、いずれにせよ苦しい選択を迫られることになる。

そんなこととは関係なしに、大学一年ののん気な孝太郎は、「今日暇だから、遊ぼ」と突然やって来る。

「あんたは気楽でいいね」

ため息まじりに孝太郎を家に招き入れる。

「あのなぁ。俺は俺で、気をつかってるんだぞ」

と、腑に落ちないことを言う。

「お前、自分の顔、見てみろよ。ずいぶん難しい顔になってるぞ」

そう言って孝太郎は、奈緒の眉間のしわを人差し指でなぞった。

「だって、いろいろあるんだもん」

奈緒が口をとがらすと、

「一人でいると、いろいろ考えるだろ?あんまり根つめるなよ」

と言いながら、まだ眉間のしわを触っている。

「ちょっと。いつまで触ってるのよ」

孝太郎の手を振り払うと「あ、怒った怒った」と言って、笑った。

「もうっ!」

奈緒は少しイラっとしたが、あまりに馬鹿げていて子供っぽくて、思わず笑ってしまった。

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