撮りとめた愛の色





私の住む、ビルが数多く並ぶこのオフィス街は最近また都市化を促す動きが出て随分と発展を遂げていた。


けれどそこの外れ───、とは言っても中心地とほとんど変わらないが──の裏道に出ると、そこは瞬く間に都市化という言葉とは程遠い景観に変化する。


倉屋敷の傍の細い石階段が続くそこを抜けて、垣根の間を通れば、その中に都市化を掲げるオフィス街にはまるで時代錯誤な雰囲気のある建物が建っている。

そこがここ、オギハラ教室。書道教室だ。



組み立てた長机を並べながら彼は部屋を見渡して、時計を一瞥すると考え込むように「ふむ」と声を漏らした。


「後はあの子達が来るのを待ちますか。それまでは茶でも飲もうか、桔梗」


柔らかな声が私の名前を呼ぶ。

それに顔を上げれば彼はくすりと笑みを浮かべ──、まるで猫を呼び寄せるかのようにちょい、と手を動かし返事も聞かず身に包んだ深い紺青《こんじょう》の着物を翻《ひるがえ》らせていった。


< 3 / 50 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop