ライラックをあなたに…


俺はどうかしてる!!

きっと、正気じゃない!!


彼女があまりにも不安そうに俺のシャツを掴むものだから、男としての本能からなのか分からないが、どうしても無視出来ず彼女を受け入れてしまった。



「一颯くん。私、ソファで寝るね?じゃあ、おやすみ」

「えっ?あっ………」


深夜2時少し前。

彼女は俺の自宅のソファに横になった。



ホテルのフロントで彼女が発した一言から事態が急転した。

『もう少しだけ傍にいて……』


彼女は消え入りそうな声でそう呟いた。

………俺のシャツを掴んで。


ビジネスホテルで深夜にチェックインする事自体珍しいだろうに、フロントに現れた2人のうち、1人だけ宿泊すると言い、更にはその手続きをしている人間ではない方が泊まるという……不思議に思われてもおかしくない。

挙句の果てには、彼女の発した一言で『すみません、キャンセルします』等と……。

ホテルスタッフが怪訝な顔をするのも無理はない。



そんな経緯を経て、俺は彼女を自宅へ連れ帰った。

世間ではこういった類を『お持ち帰り』と言うらしいが、俺は別にそんな気はない。


ただ彼女があの場で、何故俺を引き止めたのか……気にはなる。

だけど、今はそれを聞かないでおこう。



だって彼女は今、物凄く疲れているだろうから。


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