月下の幻影


 和成は昔から稽古の時もほとんど真剣を使っていた。
 人を斬るのが嫌いな和成は戦場でためらわないように、稽古と実戦の感覚の差を減らすためそうしていたのだ。


「ずっと勝ち続けていると、負けるわけにはいかない気分になってきますからね。それで肩に力が入ってるのかなと思って。ちょっと力を抜いた方が、周りが見えてきて彼女のためにもいいんじゃないかと」

「おまえも昔は周りが見えてなかったな」

「そうですね。だから、彼女の肩の力を抜いてあげたいんです。立ち会いお願いします」

「わかった」


 二人は執務室を出て道場へ向かう。
 時間は午後二時になろうとしていた。
 塔矢隊の稽古の時間である。

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