月下の幻影


 和成は君主居室を取り囲む生け垣の前で立ち止まり、中庭側を向いて月を見上げた。
 しばらくそのまま、じっと月を見上げている。

 真夜中に何をやっているのか気になって、月海は目を逸らせずにいた。

 すると和成は月に向かって何かを語りかけた後、そのまま目を閉じ幸せそうに微笑んだ。
 少しして和成はその場を離れると庭の奥に姿を消した。

 まるで月が見せた幻のようだ。

 幸せそうに微笑む和成の笑顔と、不思議な光景が目に焼き付いて離れない。
 和成が何を言っていたのかも気になった。

 月海はしばらくの間廊下の柱に縋り、その場を動けなかった。

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