聴かせて、天辺の青
出勤はいつも彼と一緒、帰りも休日も。毎日おばちゃんの車を借りるのは何だか申し訳ないと思っていると、彼が言い出した。
「自転車を貸してくれませんか、もう少し落ち着いたら買うつもりですが、それまでの間だけ」
おばちゃんと三人で朝食を食べている最中、彼が話し出すのは珍しい。
おばちゃんも私もきょとんとして、彼の言葉や内容よりも声に気を取られてしまっていた。
「あ、いいわよ。私のでよかったら使って、少し低いかもしれないけど大丈夫かしら?」
少し間を置いておばちゃんが尋ねる。
彼はさほど背が高いわけではない。私と並んで少し高いとわかるぐらいだから、おばちゃんの自転車でも問題なさそうだけど。
「だったら、私の使う? 私がおばちゃんの自転車に乗ろうか?」
と言うと、それでいいと彼は頷いた。
と言っても自転車で並んで通勤というのも変な感じ。高校生じゃあるまいし。
行く時は仕方なかったけど、さすがに帰りは気恥ずかしくて
「少し寄る所があるから先に帰ってて」
と告げると、彼は驚く様子もなく相変わらずの無表情で、
「わかった」
と答えて帰っていった。