弁護士先生と恋する事務員


「あれはちょっと可哀そうだったかなあ。」


トイレで軽く化粧直しをしながら、私は先ほどのやりとりを思い出していた。

(ご飯ぐらい、付き合ったら良かったかな。)

結局一人で晩ご飯を食べる事になった先生の事を考えたら
もっと気持ちよくOKすればよかったかな、なんて後悔する。


だけど―――


鏡の中に映っている、自分の顔をまじまじと見つめてみる。

先生におかっぱとからかわれる、あごのラインで揃えたボブスタイル。

一応、大きなカーラーでふんわり内巻きにしているのだけど
あんまりかっちりキメるのは照れくさいから、無造作な感じに仕上げている。

男の人から見たら、洗いざらしのおかっぱくらいにしか見えないんだろうな。


そして顔の第一印象を大きく占領するのが、メガネ。


(本当は、そんなに視力が悪いわけじゃないんだけど…)


メガネは私を隠してくれる、お守りみたいなアイテム。
いつの頃からか私は、異性から“女”として意識される事を避けるようになってしまった。


本当はもっとオシャレもしてみたい。

だけど見知らぬ異性に、男の気を引いてると思われたら―――
そう考えただけで背筋がざわついて、生理的に嫌悪感を感じてしまうのだ。


だからこんなお色気の足りない、冴えない小娘と食事をしても

先生が食事に行きたかった女の人の穴埋めには到底なれないんじゃないかとか、そんな気持ちの方が勝ってしまう。


(でもそんな事、所詮私の独り相撲だし、先生には関係のないことだよね。)


やっぱりお食事、お供させてくださいって言おうかな。


そう思いなおして事務所に戻ろうとすると、ドアの前に中学生くらいの男の子が心細げに立ちつくしているのが見えた。

 
< 12 / 162 >

この作品をシェア

pagetop