偽りの婚約者



あの二人がお互いを想いあっているのが良く分かる。
ただ純粋に想いあっている、あの二人が眩しく見える……。



「千夏!」


直ぐ近くに見馴れた車が止まっていた。



「あ……、東條さん」



「お前、なんかあった?」



「えっ?」



「ぼんやりしてたみたいだけど?」


「いえ……、なんにもないです」



「そうか、ならいいけど」



私が乗った車は海岸通りに向かって走り出した。



「ちょっと、降りて散歩するか?」



車から降りて砂浜を並んで歩いた。
時々吹く柔らかい風が気持ちいい。
こうやって外で二人で会っている私達は、周りにはどんな風に見えているんだろう?


友達?
それとも、ちゃんと恋人同士に見えてる?


って、私ったら何を考えてるの……!
私がこの人と一緒にいるのは、復讐に協力する為なのに。



最初の頃は、なんて最低な人なんだろうって思っていたけど何度も会っている内に東條さんへの印象は変わっていった。


頭では分かっているのに、東條さんと過ごす時間が楽しくて本当に恋人と一緒にいるような錯覚をしてしまいそうになる。
このままだと好きになってしまうかもしれない。
これ以上気持ちが傾いていかないように、気を付けないと……。



だって……彼にとって私は利用価値がある、ただそれだけの存在なんだもの。





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