私は彼に愛されているらしい2
隠すつもりは無かったが、報告を躊躇うものでもあり居心地の悪さが有紗を包む。

案の定、東芝の顔は不機嫌になっていった。

「こんな宿題もらってくるな。うちの仕事じゃない、突っ返してきて。」

「…はい。」

それが出来たら苦労はしないと有紗は頭を抱えたくなる。

どうにも断りきれなくて殆どいいように言いくるめられたようなものだったのだ。

果たして口のうまい相手に勝てるのだろうかと不安が生まれて厳しい表情になっていった。

「ここの担当者はバカ。持田さんがいいように操らないと自爆に巻き込まれるぞ。」

「でもどうしたら…。」

「は?知るか。自分で考えなきゃ意味ないでしょ。」

「…はい。」

アドバイスの様な言葉についすがってしまったがそこはやはり東芝だ、間髪入れずに返ってきた辛辣な物言いに有紗は素直に肩を落とした。


東芝の言葉に負けて凹む有紗を見かけるのもすでに定番化されている。

俯こうが涙を浮かべようが容赦しない辛辣王子は名前の通りだった。

遠くから見守る同僚たちも哀れに思うだけで誰も手を差しのべようとはしない、とばっちりはゴメンだと距離を置いているのだ。

しかし理由はそれだけじゃない。

「あ、じゃあ東芝さん。こういう提案をするのはどうでしょう?」

俯いたのも束の間、有紗は閃いたと目を輝かせて東芝に向かい合っていた。

東芝も待っていたように聞く姿勢で受け入れる。

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