私は彼に愛されているらしい2
自分だけの感覚じゃなかったと安心したのかみちるは何度も確かめるように頷いて有紗の様子を窺った。さっき会話したばかりだが、横で話すものでもないのに少し立つ位置の距離が近いと思っていたのだ。

「私、本当に血迷ってしまって東芝さんに言っちゃったんです。東芝さんのことが好きかもって。」

「えー?突っ走ったね!」

「仕事中でしたしね。そしたら凄い渋い顔して全否定されました。沢渡さんからの入れ知恵だろって。」

「あら、さすが東芝さん。」

口元に手を当てて納得する素振りはまるで井戸端会議のおばちゃんだ。たまに見せるみちるのこうした姿も有紗は可愛らしくて好きだった。

そしてふと東芝に言われたことを思い出して有紗から笑みが消える。

本質を見抜く疑う心。

運転席に座るみちるを見つめて有紗は目を細めた。

「なに?」

「いいえ。みちるさんは優しいなって思って。」

さらりと出てきた取り繕いに自分でも吐き気がしそうだ。

それと同時に疑うべき人物を間違っていると気が付いた。ここがまだ青い証拠なのかもしれない。

「嫌なことは寝て起きたら忘れてますよね。今日はもう賃貸情報誌読んで寝ます。」

「うん?どうしたどうした?」

「みちるさんと話して気分転換できました。」

変な方向に考えが走ってしまうのもまだ疲れているからだ。しかり睡眠をとって、またいつものように疲れを見せない隙の無い自分に戻らなければ。

「よく分かんないけど、帰る?」

「はい!お願いします。」

とりあえず前に進めば何かが開けてくるかもしれない。

大輔に前向きな姿勢でメールをした以上、そんな自分である必要があるのだ。

全て自分で決めたこと。

みちると他愛のないガールズトークを繰り広げながら有紗は明日からの自分へ意気込んだ。
< 137 / 304 >

この作品をシェア

pagetop