私は彼に愛されているらしい2
「いい返事を聞くまで諦めないから。」

全身に力が入り肩を上げたまま固まってしまった。さっき確認したはずだった自分のおかれている状況がまた分からなくなってしまったのだ。

ただ、大輔の熱意のようなものだけは感じる。それが余計に怖くて有紗の動機は治まらなかった。

強く酔い過ぎただけでしょう?

「有紗聞いてる?風呂入るんだろ、また連絡する。」

とりあえずの幕引きをしてくれるようで止まっていた呼吸が動きだす。

「あ、うん。分かった…おやすみ。」

やっとの思いで絞り出した声に大輔はおやすみと答えて電話をきった。

耳に残る通話終了の音が余計に思考を迷走させそうだ。全身から力が抜け、その場にへたりこむまでそんなに時間はかからなかったと思う。

自分に聞こえるくらい鼓動が強いなんて、どれだけ心臓に悪いのだろう。

携帯を持っていた手が力なく床に落ちると反対の手で心臓あたりの位置を温めた。

「嘘でしょ。」

まさか、大輔が?

そんな言葉が繰り返し頭の中で叫ばれ続ける。予想していなかった事態に完全に翻弄されていた。

電話に出てからそんなに時間は経っていない、10分程の通話時間はこれでもかというくらいに濃いものだったのだろう。気力体力の消耗が半端なく、有紗はもう動けそうになかった。

ここに来てようやく行き着いた可能性が1つ。

「大輔は…私のことが好き…?」

口にした途端、顔が真っ赤になって恥ずかしくなった。

「いやいやいやいや、ないないないない。手短…手短なところに目を付けただけだから。」

両頬に手をあてて必死に自分の中の気持ちと戦っている、でも負け越しになることくらい分かっていた。

手短なところで事を済ますような男じゃないことは有紗も知っているし、そんな男であってほしくないという願いもあるのだ。でも、そうなれば。

「嘘でしょ。嘘でしょ!?」

今夜は絶対に眠れない、そんな未来を予想して有紗は膝を抱えて唸り続けた。

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