恋愛ターミナル

何気なくいつものように返した言葉だったが、梓の動揺する反応をみた二人は目を大きくして顔を合わせた。


「……え? ね! 梓の今の彼氏ってどんな人? 何歳? また妻子持ちとかじゃない?」


凛々が前傾姿勢で質問攻めすると、いつもはクールの梓が恥ずかしそうにぽつりぽつりと話し始める。


「……作業服の、似合うひと……」
「修理とかする仕事の人?」
「は? 作業服? ――あ」


凛々がなにかを思い出すと、今度は凛々が注目される。
話の腰を折った、と凛々は苦笑いしながら、ささっと説明して終わらせようとした。


「やー、うちの園で。一週間くらい迎えに来てたお父さんが作業服だったから、なんか思い出しちゃって。ごめんごめん」
「――それって、『ゆうとくん』?」
「えっ!! なんで?!」


亜美を置いてけぼりにしたまま、梓と凛々が目を丸くしながら言葉を交わす。


「まさか凛々の幼稚園だったなんて。偶然ってあるものね」
「いやいや! なに? まさか、今度の彼ってゆうとくんのお父さ――」


黙って二人の話を聞いてる亜美が、凛々の言うことの先が想像できて青褪める。
すると、梓はアイスティーを一口飲んでから「はぁ」と溜め息をついて言った。


「私も初めは父子(おやこ)だと思ってた。でも、ゆうとくんは妹の子供なんだって。あのとき妹さんが旅行で、その旦那さんが急遽出張重なっちゃったから、平岡さんが面倒見てたんだって」
「『平岡さん』? そっか。ゆうとくんは『原田』だ。はー……マジびっくりしたぁ……」
「……詳細知らない私も、ちょっとドキドキしちゃった」


凛々と亜美が安堵して肩の力を抜くと、梓がストローを指で遊ばせながら、二人を見て失笑する。




< 169 / 170 >

この作品をシェア

pagetop