狡猾な王子様
英二さんと話したあの日から、私たちの関係はまた以前と同じようなものに戻った。


戻った、と言ってしまうと、語弊があるのかもしれないけど……。


少なくとも、私はそう思うようにしている。


そうしないと、未だに膨れたまま縮むことのない恋心が、今すぐにでも胸の奥の殻を破って溢れ出してしまいそうだったから……。


ここ最近はよく降る雨も相俟って、ずっと憂鬱な私の気持ちはますます沈みがちになっている。


それでも、英二さんの前ではできるだけ平静を装って過ごし、いつも笑顔でいるように心掛けていた。


きっと、それが大人というものだと思う。


木漏れ日亭とうちのお付き合いが続く以上、木漏れ日亭のたったひとりのスタッフでありオーナーでもある英二さんと気まずくなってしまうのは避けたい。


そもそも、まずは仕事上のお付き合いをしなくてはいけないし、私のせいで彼を困らせてしまうのは嫌だから……。


だったら、やっぱり“なかったこと”にするのが一番いいと思う──。

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