週末シンデレラ番外編SS集


「ここ、ひとりでもよく来るんだ」

こぢんまりとしたお店は住宅街によく馴染んでいて、「手打ち」と書かれた紺色ののれんが、涼しい夜風にふわりと揺れている。

よく訪れる場所に連れてきてくれるなんて、征一郎さんの大切な領域に入れてもらったみたいで嬉しい。

「お蕎麦なんて、久しぶりに食べます。楽しみです」
「喜んでもらえてよかったよ。お蕎麦以外もあるからいっぱい食べるといい。天ぷらやお刺身もあるし、デザートに柚子シャーベットや黒ゴマプリンもあったはずだから」
「柚子シャーベット……うーん、黒ゴマプリンも捨てがたい」

シャーベットはさっぱりとしていて口直しにもってこいだろうし、黒ゴマプリンは濃厚そうで惹かれる。その前に、お蕎麦が楽しみすぎるし、天ぷらとお刺身……他にはなにがあるんだろう。

お店の前で考えていると、隣で立っていた征一郎さんがクックッと肩を揺らしていた。

「せ、征一郎さん?」

どうしたのだろう、と顔を覗き込むと口元が綻んでいた。

「いや、きみは本当に食べることが好きなんだなって。でかける前も、すごく元気にうなずいていたから」
「えっ……あっ、す、好きですけど……っ」

たしかに食べることは好きだし、否定はできない。

でも一応、女の子だし……食い意地が張っていると思われているなら恥ずかしい。征一郎さんと一緒にいられることが一番嬉しいのに。

わたしがうつむいていると、征一郎さんが頭にポンッと手を乗せてきた。

「いいことだよ。ほら、入ろう」

征一郎さんを見上げると優しく微笑んでいて、単純なわたしはそれだけで気持ちが明るくなったのだった。


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