アロマな君に恋をして

「……ますます理解不能だわ」


そう言って眉根を寄せる緒方さんを見て、私は我慢できずに反論する。


「麦くんは私を大切に思ってくれているから、簡単に手を出して来ないだけです。
優しくて素敵じゃないですか!」


鼻息を荒くして言い切った私を、緒方さんがおかしそうに笑った。


「……なずなちゃん、そういうの、のろけって言うのよ?」

「え?」

「何はともあれ二人が幸せならよかった。私、ちょっと裏で発注の確認してくるわね。何かあったら呼んで?」

「ちょ、ちょっと待っ……!!」


私、のろけたつもりなんて……!!

言い訳をしたくて緒方さんの背中を追いかけようとしたのに、チリン、というドアベルの音がそれを許してくれなかった。

いけない、ちゃんと仕事しなくちゃ……

私はドアに背を向けた状態でぺち、と頬を叩くと、接客用の笑顔を作って後ろを振り返った。


私が「いらっしゃいませ」を言う前に颯爽と目の前まで歩いてきたその人は、高そうなスーツを着こなした30代くらいの男性。

服だけでなく全身から「できる男」オーラが漂っていて、こちらもきちんとしなければ、と背筋が伸びるような感覚になる。


そんな私に、彼は少し吊り気味の目を細めて言った。




「――女性をその気にさせる精油が欲しいんだけど、どれかな?」



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