人知れず、夜泣き。


 「得意料理?? んー。 ・・・ロー・・・」

 木内は、黒目を右上に向けながら考える仕草をすると、何かを言いかけて辞めた。

 「何?? 『ロー』って」

 「・・・ロー・・・ストビーフ」

 木内の口から飛び出る、突っ込んで欲しいとしか思えないメニュー。

 「木内さん、突然お金持ちぶらなくていいですよ。 ローストビーフなんて、年に何回も作んないでしょ」

 絶対嘘じゃん。 何、急に気張り出してんの?? 木内。

 「うるさいな。 得意だもん。 超上手に作れるもん!!」

 バレバレな嘘を吐いた上に開き直る木内。

 まぁ、木内だったら超上手に作るだろうけどさ。

 「じゃあ、今度作ってよ」

 「そうだね。 橘くんのお誕生日にでも」

 オレの誕生日がいつかも知らないくせに、超絶テキトーな返しの木内。

 つーか、祝い事の時しか作らない料理を『得意料理』と言ってくれるなよ。
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