人知れず、夜泣き。




 -----シゴトが終わって、『じゃあ行かない』とか言っておきながら、コンビ二でポカリとゼリーを買いつつ木内のアパートに向かう。

 やっぱり心配だし。

 木内、ちゃんと何か食べたかな。

 木内のアパートに着き、部屋のベルを押す。

 木内が内鍵を掛けたままドアを開けた。

 「・・・橘くん、どうしたの??」

 ドアの隙間から木内の片目だけ見えた。

 「お見舞い。 開けて」

 「ヤダ。 風邪移っちゃうでしょ」

 内鍵を開けようとしない木内。

 ・・・有り得ない。

 普通、お見舞いに来た人を追い返したりしないだろうよ。

 「だから、オレはそんなに軟じゃねぇっつーの」

 「それを人は『過信』と呼ぶの!! ワタシのせいで橘くんが風邪になるとか、まじでイヤ」

 オレの『お見舞い』という親切を無碍にするのは、木内なりの優しさらしい。

 「入れてくれるまでココにいるよ?? 外にずーっといたら、結果オレも風邪引くだろうね」

 でも、帰らない。 いつも木内に弁当作ってもらってるから、こんな時くらいは木内の役に立ちたい。

 「・・・ワタシ、すっぴんなのに・・・」

 木内があからさまな嫌々感を出しながら、内鍵を外し、ドアを開けた。

 普段、木内がどのくらい時間をかけて化粧をしているのか知らないが、残念な事に全く努力が報われていない。

 化粧した木内と、すっぴんの木内。 ほぼほぼ変わらない。
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