婚恋
本当の気持ち

繋がり

「ありがとうございました」
時間は午後7時15分。
閉店時間30分前くらいになると、客層が変わる。

平日の、日の出ている時間帯のほとんどは女性客だ。
買うものは切り花が中心だ。
だがこれが日没後となると男性客の方の比率が高くなる。
そしてそのほとんどが花束だ。

男性客に贈る相手のイメージを聞きながら
花束を作っていくのだが、その時のお客様の顔を見るのが
私は好きだ。
だって私にイメージを伝えている時は贈る相手の人の事を思いながら
いうわけでしょ。
赤かな?ピンクかな?イエローかな?・・・オレンジ?ブルー?
その時は贈る相手の事だけを考えている。
そういう時の男の人って真剣だし、相手に喜んでほしい。
喜んでいる顔が見たいって思いながら花を選ぶ。

素敵よね。

今帰られたお客様も男性だった。
スーツ姿がまだしっくりきていない感じが
新入社員といった感じだった。
でもあれは確実に彼女へのプレゼントだった。
照れくさそうに
「ピ・・ピンク系かな?」
ぎこちなく注文する姿がなんだか可愛く見えた。

男性客を見送り店内に戻ろうとすると
「は~る~ひ~」
どこかで聞いた声に振り向くと松田君だった。

松田君とはなんだかんだ言って一番付き合いが長い。
私が会社を辞めてここで働くようになってから
何かと注文をしてくれる。
常連客だ。
彼の場合、職場がらみの注文がほとんどで
寿退社やら人事異動、定年退職、というときに注文をしてくれる。
残念ながらプライベートでの注文はない。

今回の注文は寿退社する女性社員用の花束のオーダーだった。
「いつもありがとう。今回はどんな感じがいい?」
「う~~。どちらかというと明るい感じ。元気というか
ムードメーカー的な感じ」
「じゃあ・・・オレンジとかイエローなんかどう?」
「そうだね。細かい事はいつも春姫任せで申し訳ないけど頼むわ。
失敗ないし、春姫センスがいいから、安心できるんだ」
「そんなに持ち上げても、何も出ないわよ」

松田君と会うのは2~3ヶ月に1回程度だが
こうやって定期的に会いに来てくれるのは
彼だけだ。
バンドは活動中止だが、彼が来てくれると
まだバンドは続いてるって気持ちになれる。

そんな松田君から飲みに行かないかと誘われた。
こういう時の誘いって何かあるんだよね。
「いいけど・・・内容による」
すると松田君の顔色が一瞬変わる。
・・・なんかやな予感。
少しの沈黙の後
「実は俺も飲みに誘われたんだけど、飲む相手が彼女を
連れてくるって言うからさ・・・おれだけのろけを見るって言うのは
なんかさ・・・いやじゃね?」
一人じゃ場が持たないってことね。
「それで私を・・・」
すると目をキラキラさせた松田君が何度も首を縦に振った。
「それで?私は松田君の彼女役でもしていればいいって事?」
「いや~~そこまでは春姫に申し訳ないし・・・」
顔は、そうしてくれるとうれしいって感じですけどね・・・
「それは状況見て考えるけど・・・時間は?」
「8時に駅前の居酒屋・・・だけど・・」
うちは8時閉店だから到底その時間は無理だと言おうとした。
すると店の奥にいた、私の母が
「行ってきたら?いいわよ店の事は私も父さんもいるから・・・」
「いいの?」
「たまには男の子とも遊ばなきゃ、いつまでたってもいい出会いないし・・・」
半分呆れた様子だが、そう言われてもし方ないよね・・・

私の結婚がダメになった時の両親のショックは相当なもんだった。
でもうれしかったのは私自信を心配しての事だ。
けっして体裁が悪いと言った理由ではない。

母の気遣いに感謝し、私は急いで支度にとりかかるため店の奥に入った。
何やら母と松田君が話をしている様だったけど
何を話しているのかはわからなかった。
というか母って私の友達とかとすぐ仲良くなるのよね。
バンドのメンバーとも凄く仲良かったし・・・特に陸とは・・・
ふと陸の事を思い出したが、それを振り払う様に
私は急いで支度を始めた。
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