ヒールの折れたシンデレラ
「あんた、常務と結婚するの!?」

理乃の思いのほか大きな声に周りにいた社員が一斉に静かになった。

「はぁ?ええ――!?」

しかしこの食堂で一番驚いたのは誰であろう、千鶴本人であった。

理乃はトレイを持ったまま突っ立っていた千鶴を窓際の目立たない席に誘導して、そこに座らせた。

どうやら弁当を持参してきた理乃は小さな弁当箱をひろげて話の続きをし始めた。

「朝からね、秘書課は常務の婚約者候補があつめられるはずなのに、異動したのはどんな子なのって散々聞かれてね」

理乃は一気にまくしたてる。

「今まで社内の人間が異動になることなんかなかったのに、どうしてかその子だけは特別に秘書課になった。それぐらい常務が手元に置きたがっている相手って一体誰?そのシンデレラみたいな子!って噂になってるの」

身振り手振りを交えて大袈裟に話している理乃をみてさっきから自分に向けられた視線の理由がわかった。

「シンデレラって……」

「だって、ただの地味な経理課の彼氏がいない残念なOLが大会社葉山の次期後継者に見染められるなんてまさにシンデレラストーリーじゃない」

まるで自分の事のようにきらきらと瞳を輝かせる理乃を見て千鶴は溜息混じりに言った。

「地味で彼氏がいなくて残念なOLですみませんね」

「あーごめんごめん本当のこと言って」

余計悪い……と思いながらもすでにここまで噂が広がったということは、今さらどう頑張っても訂正のしようがないことに気づく。

尾びれも背びれも色んなものがついて、三日後にはもっと大きな話になっているだろう。

そう考えると、目の前にあるランチがいっこうに喉を通らなくなってきた。

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