ヒールの折れたシンデレラ
部屋に着いてお気に入りの部屋着に着替えると先ほどスーパーに寄って半額で買ってきた惣菜とビールで簡単な食事をとる。本来なら自炊するべきだろう。

健康と財布の中身を考えてもそれがベストだということも分かっている。だが今その気力が千鶴にはなかった。

ソファに座ってローテーブルの上に皿も使わずに惣菜のパックをならべもらった割り箸を割る。

缶ビールをあけて「乾杯。お疲れ」誰もいない部屋に千鶴のつかれた声だけが響く。

社会人になると同時にひとり暮らしを始めた。

父の亡き後、叔母が引き取ってくれて大学まで卒業させてくれた。

父の遺産があるからお金は気にするなという叔母だったが、当時叔父の経営する会社がうまくいっていなくて、夜よく喧嘩をしているのを聞いた。

そしてそこにいつも自分の名前が出てきていたことも知っている。

実の娘と同じように、三つ上のいとこの煌太とも遜色なく育ててくれた叔父と叔母には感謝している。

だがどこか疎外感があったのも事実だ。就職を機に住み始めたこの1DKのこの部屋は千鶴にとって狭いけれども心休まる大切な場所だった。

缶ビールをくいっと煽り明日への英気を養った。

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