偽装結婚の行方
会社を出て駅近くの喫茶店へ向かった。そこを真琴が指定したのだ。

約束の時間ちょうどに着くと、真琴は既に来ていた。テーブル席に座っている真琴に向かい、「よお」と手を小さく上げると、真琴も俺に気付いて手を上げたが、彼女の笑った顔が少しぎこちなく見えたのは俺の気のせいだろうか……


「何かあったのか?」


店員にコーヒーをオーダーすると、すぐに俺はそう切り出した。


「別にそういうわけじゃないけど……」


真琴にしては珍しく歯切れが悪い。何かあったんじゃないとすると、なぜ急に俺を呼び出したんだろうか。


「ねえ、どうして急に引っ越したの?」

「それには色々あってさ。今度じっくり話すよ」

「今度じゃなくて、今話して」

「え? じゃあ、おまえ、それを聞くために俺を呼び出したのか?」

「そ、そうよ。悪い?」

「悪くはないけどさ……」


驚いた。引っ越しについては、尚美の事とかを含め、いつか真琴には全てを話すつもりだったが、真琴がそれほど関心を持ってるとは思ってなかったから。

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