偽装結婚の行方
その後は俺も真琴も眠れる訳はなく、テレビを見るともなく眺めて時間を潰した。


「どうぞ」


真琴が俺にコーヒーを淹れてくれた。あれから真琴は殆ど口を利いてくれないが、そう酷く怒っている風でもない。


「サンキュー」

「ご飯は作らないからね」

「あ、ああ。いいよ」

「会社に行くの?」

「サボりたいところだけど、行かないとな。これ飲んだら支度して行こうと思う」

「そう? それで、これからどうするの?」

「とにかく事実を確認する。尚美は、相手の男の離婚が決まったと言ったんだ。だから俺との偽装結婚は終わりだと。それが本当かどうか確かめる」

「本当だったら?」

「もちろん諦めるさ。きっぱりとね」

「じゃあ、嘘だったら?」

「ん……分からない。とにかく話し合おうと思う。これからの事を」


“話し合う”というのは遠回しな言い方で、本当は俺の気持ちは決まっている。しかし真琴の想いを知っただけに、ハッキリとは言わなかったのだが、


「結婚するの? 偽装じゃなくて、本当に」


逆に、真琴にハッキリ言われてしまった。


「あ、ああ。俺はそうしたいと思ってる。尚美の気持ち次第だけどね」

「素直にそう言えばいいのに……」

「ごめん」

「分かった。頑張りなよ。幸運を祈る、なんちゃって」


真琴はそう言うと、可笑しそうにウフフと笑った。それを見て、やっといつもの真琴に戻ったかな、と俺は思った。


「サンキュー。あのさ、これからも俺達は気の合う友達だよな?」

「それは無理」

「えっ?」

「嘘よ。今までと全く同じとはいかないけど、友達でいてあげるわ」

「すげえ上から目線」

「うふふ」


という事で、真琴とギクシャクせずに済んだのはよかったと思う。さてと、尚美から本当の事を聞き出さないとな!

< 90 / 122 >

この作品をシェア

pagetop